記事一覧

ブライトリングの新機軸

ほとんどの時計は、先代モデルのデザインを再解釈したものだ。それがブランドの特徴であり、同じものを繰り返し使うことで独自のデザイン言語を確立しているのである。ブライトリングはこの時計を "リ・エディション"と呼んでいるが、私はこのネーミングを正当かつ的確だと評価している。フォティーナ(これは確かに“着色に過ぎない”が、ほとんどの場合、復刻版や旧モデルへのオマージュを込めた時計に積極的に採用されている)を施していることや、夜光プロットにラジウムが使われていないことから、旧モデルの精神を受け継いでいないと言う人もいるだろう。私はかなりの期間、この2本の時計を併用していたが、もし53年モデルがNOS(未使用品)で1日たりとも使用されていなかったら、見分けるのにとても苦労しただろう。時計の重さの違いさえも気づかないほどだったからだ。


 この時計の動力源は、ブライトリングのCal.B09だ。オリジナルと同じく、手巻き式のコラムホイール式クロノグラフムーブメントである。巻き上げてみると、思わず笑みがこぼれる。リューズの操作性は非常に優秀で、ラチェット歯車が回転するたびにクリック感がダイレクトに伝わってくる。ただし、その様子は、スティール無垢の裏蓋を採用しているため窺い知れない。むしろ好感がもてる点だ。

 なぜ70年近く隔て、同じ時計を作るのか? それは、この方法論が有効だからだ。ジョージ・カーン率いるブライトリングが、ヴィンテージ・ブライトリングの収集コミュニティが昔から知っていたことを発見しているからである:ブライトリングの最も興味深いデザインの多くが、50年代から70年代にかけて発表されていることだ。ナビタイマー Ref. 806 1959リ・エディションは、2019年のバーゼルワールドで発表されたのを皮切りに、以来ブライトリングは歩みを止めることはなかった。ゾロ風ダイヤルの“トップタイム”リ・エディションやスーパーオーシャン ヘリテージ '57の成功を思い出してほしい。カーンのアプローチに最初は懐疑的だった収集家のコミュニティも、このレトロへの舵切りを熱狂的に受け入れていると思う。

【関連記事】:様々な流行の時計ファッションニュースと今後の動向